
「インナーゲーム」は著者のおもしろい体験がたくさん書かれており、読み物としてもおもしろいのですが、その中に前回説明した「セルフ2」が最大限発揮された時のエピソードが書かれているので紹介したいと思います。
それは著者のもとへ、「ボールをいつもフレームで打ってしまう」という女性ジョアンがやってきた時のこと。
この時もジョアンは類にたがわず、10球中8球はフレームで打ってみせたそうです(笑)。
そこで著者はジョアンにある提案をします。
「今度は心をボールの縫い目に集中してみよう。打つことは考えないようにしよう。今度の実験ではボールを打とうとしなくていい。振ったラケットが、勝手に当たるところで、ボールを打たせればいいんだ。それでどうなるか、見てみようじゃないか」
そうすると、今度はなんと、ジョアンは10球中9球をラケットの真ん中で打てたそうです。
ミスヒットした最後の1球は、ボールに集中するのではなく、ついつい「私だってけっこういいプレーヤーになれそうじゃない!」と考えてしまったそうです(笑)。
これはつまり、彼女のセルフ1は10球中9球は「ボールの縫い目を見ること」に集中していたため、その間セルフ2は誰にも邪魔されずにその能力をフルに発揮できたということです。
ただし、最後の一球だけは、きっと
「私ったらすごいわ!全部真ん中で打ててるじゃない!
⇒最後の1球も真ん中で打ちたいわ⇒どうすれば真ん中で打てるのかしら・・・」
と、それまでの自分のプレーを「評価」してしまい、また次もどうすれば上手く打てるのか、その「方法」を「考えてしまった」のでしょうね。
つまりセルフ1が再び動き出し、セルフ2がせっかく正しいタイミングで打っていたのを邪魔してしまったので、ミスヒットになったということです。
他にも例を出しましょう。
今度はボールではなく、本人のフットワークに意識を集中させた時の例です。
ある日、数名のママさんプレーヤーをレッスンしていた著者は
「何が正しい、悪いは、初めから全くない、自分のフットワークがどうなっているかだけに意識を集中して打ち返してほしい」
と言いました。
ここでのポイントは、前回と同様に、ただ「観察させた」ということです。
フットワークが鈍臭かろうが、ボールが入らなかろうが、それら「結果」に対する「評価」を、ママさんたちにはさせなかったという点です。
ママさんたちは、コーチに言われた通りに、自分のフットワークだけを意識し、ただ黙々とボールを打ちました。
そうするとなんと全員が1球もボールをネットにかけることなく、打ち返すことができたのです。
しかし、ここで著者はある「ミス」を犯してしまいます。
ネットに誰もボールをかけなかったことで、ママさんたちを「褒めてしまった」のです。
すると次の練習ではどうなったか・・・
それまでボールの行方をまったく気にしていなかったのが、「ネットしていないことを褒められた」ことで、ママさんたち全員が「次もネットを超えなければ」と考えてしまったそうです。
良い悪いの「評価」が生まれたことで、それまで静かにしていたセルフ1は一気に活動を始めてしまいました。
結果多くのボールがネットにかかり、ネットを超えてきたボールも前回より幾分コースにばらつきがあったそうです。
これらの事例からわかることは、私たちは自分自身に「もっと速くラケットを引け」「打点は前だと言っただろ」「膝が曲がってないからミスするんだ」など、セルフトークする必要は全くないということです。
ジョアンにしてもラケットの真ん中にボールを当てようと思っていた時には、逆にフレームショットを繰り返していたし、ママさんたちもボールをコートに入れようとした瞬間、つまり、セルフ1が活動を始めた瞬間にミスを連発しました。
それでは、私たちは本当は何をするべきなのでしょうか?
その答えがまさしくセルフ1(自分の思考)ではなく、セルフ2(自分の身体)にプレーさせるということです。
「でもそんなこと言ったって、いったいどうすればいいんだよ?」
そうですよね(笑)。
次回はセルフ2にプレーさせる方法について見ていきましょう。